今回は、随筆としました。散文です。エッセイに近いかも知れません。
最近年老いた父が昔話をよくする。昔は怖かった父だが涙腺も弱くなった。
私は幼いころ、三輪車での逃亡癖があったようだ。
「三輪車さえ有ればどこへでも行ける。」
家族総出で探し回り、たいがい、隣町あたりで発見されたようだ。
親に似たのか、私の息子にも逃亡癖がある。
一緒に外出すると、すぐさま走り出す。一年生にもなると、親ではついていけない。
気が付くともう、どこにもいない。
暫くは放っておくのだが、長時間戻ってこないと心配になる。
「車に曳かれてはいないだろうか?」「怖い人に連れていかれてないだろうか?」
「怪我をして倒れていないだろうか?」
何度、心配しながら探し回ったことか。
やっとの思いで見つけ出したとき、
当の本人は何事もなかったような顔をしている。
安堵でつい、涙腺が緩みそうになる。
それを誤魔化すかのように、つい、大きな声が喉を突く。
泣きじゃくる子の小さなやわらかい手を大切に握る。そうすると何故か父の手が目に浮かぶ。
三輪車で逃亡していたころの私もきっと、泣きながら父に連れられて歩いたのだろう。
無言で息子に語り掛ける。
おまえにもいつかわかるよ。なぜお父さんの手が大きいのか、
なぜおじいさんの手がしわくちゃなのかを。
(大嶋)